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 小船理論

いつの間にかシリーズ化していただいたこのコラムも、今回で3回目になる。1回目・2回目と、初めての国際都市ストックホルムでの暮らしの中で、日本で身に着けてきたあらゆることが通用しないはがゆさを述べてきた。個人主義の欧米では、人種や国籍を問わず、一人の人間として何をどう決断するかが日々大きく問われ、社会生活に如実に反映される。日本人であることを誇りに思いながらも、集団社会である日本との違いと、自分が何を選択するかの大切さを痛感してきた。

しかし同時に、前号に掲載された、折り紙の鳥本先生の外務大臣賞受賞スピーチを拝読し、大いに共感させられた。先生の仰るとおり、どんなに個人の判断が求められる環境であっても、それを凌駕した運命を人は背負っている。生まれる時代も、国も、親も、誰も自分では選べない。そしてだからこそ、私は誰にも言い訳できない。私は戦争を知らない幸福な時代に生まれ、何一つ不自由ない豊かな日本に生まれ、素晴らしい両親の下に生まれた。とりわけ両親からは、健康な体と、世界で通用する教育と、今なお続く無償の愛を与えて頂いた。今ここに辛い事が訪れても、それは時代のせいじゃない。祖国のせいじゃない。家庭環境でもない。きっと私が原因だ。

時折そうして自分を責める私だが、辛い時は不思議と誰かが助けてくれる。家族や友人や先生が、昨日知り合ったばかりの人が、道でたまたま声をかけてくれた人が、誰かが必ず助けてくれる。気づけば周りは素敵な人ばかりになっている。そして私はある言葉を思い出す。

日本にいたころから、私はミュージシャンとして音楽の仕事にも携わってきた。ある日ヴォーカリストの友人がこう言った。
「素晴らしいミュージシャンをバックに歌うのは、まるで大きな波に揺られているみたいに気持ちよい。」
素晴らしいミュージシャンと共演できる時、私はただただ小舟を大海に浮かべればよいだけだ。それはサーフィンの様なもので、乗ってしまえば、あとは先輩方の作り出す波が私を最高の気分に連れて行ってくれる。バランスさえ取っていれば、何もしなくていい。波はずっと揺れている。波が連れてってくれる。ただ、小舟を浮かべるのは実は難しい作業。余計に漕いだら小舟は沈む。うまく波に乗せられるように、うまく波に乗っていられるように、脱力しつつも究極に集中しなくてはいけない。それができたら、バックの先輩方は私を楽園に連れてってくる。これを私は密かに『小船理論』と名付けている。抗わず、委ねれば、波は勝手に大海へ導いてくれる。

1月に初めて、日本人会の新年会に参加させていただいた。初めてお会いする方ばかりで、こんなにも多くの日本の方がストックホルムにいたのかと驚きを隠せなかった。また書道家の木村浩子先生をお手伝いさせていただくに当たり、何十年と世界中で活躍された先生の手腕や懐深いお人柄に触れることができ感動した。穏やかな遠浅の海とは違い、大海原は時に嵐になる。にも拘らず、木村先生、鳥本先生はじめ素晴らしい先輩方に囲まれて、自分の漕ぎ進んできたこの海が七色に輝いているように感じられた。私は今日も、いつ来るか分からない本物の波に備えて必死にパドリングしている。出会った私淑の人々に、いつの日か私も近づくことができるだろうか。
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